今回は、ラ・ヴァルス(ラヴェル作曲)の魅力についてです。
この曲は、古典的なウィンナ・ワルツを徐々に破壊していく点が特徴的かつ魅力的ですが、その破壊について以下3点から迫っていきたいと思います。
①第一次世界大戦の影響
この曲が作曲されたのは、1920年頃。
実は作曲者のラヴェルは、その直前(1914~1918年)の第一次世界大戦でフランス軍のトラック輸送兵となり、死と隣り合わせ危険な運搬業務を担っていました。
恐らく、筆舌に尽くしがたい過酷な現場も見たことでしょう。
その背景を知ると、この曲は、戦前の古き良き文明や平和が戦争で破壊されていく様を比喩しているように聴こえるのです。
また、聴きようによっては、今後のさらなる破壊(第2次世界大戦)を示唆しているように思えるのも(当然ラヴェル自身も知りようは無かったはずですが)、恐ろしいです。
②上方・下方変異による違和感の創出
クラシック音楽に親しんでいる人はお分かりいただけると思いますが、この曲の響き(和声)はロマン派の曲と比べると終始違和感があり、これが破壊を感じさせる一因となっています。
実は、上方変位や下方変位がふんだんに含まれているのです。
(上方変位・下方変位については別記事も参照)
例えば、147小節目以降。
変位を示す、各和声記号の左上の斜線(上側に伸びているのが上方変位、下側に伸びているのが下方変位を示す)が、多くの和音に含まれているのがわかるかと思います。
他に、345小節目以降なども。
これらの変位により、綺麗ながらも何か引っかかりを覚えるようなハーモニーが作られていたというわけです。
③破壊されない拍子によって際立つ、破壊の異常性
この曲では、後半になるにつれどんどん音楽が崩壊させられていきます(上述の②の通り和声が崩れる他に、テンポも大きく揺らぐ)。
しかし、拍子(4分の3)だけは、終始頑なに守り続けられます。
そのギャップこそが、この曲をより狂気じみたものにしているように感じられます。
つまり、破壊されなかった拍子によって、和声やテンポの破壊の異常性がより際立つように思えます。
※実はラ・ヴァルスという表題は、英語名だと「ザ・ワルツ」に相当します。この曲は、その表題が示すように、3拍子だけは崩さずに書き上げられていたのです。
以上、ラ・ヴァルスの魅力でした。
是非皆さんも、上記を意識しながら、聴いたり弾いたりしてみてください!